オペアンプ回路の裏表
オペアンプ回路は大学向け教科書では、比較的後のほうに記述される。
アナログ回路設計者/教育者としての立場から発言させて戴くと、実践としてのアナログ電子回路の教育はオペアンプ回路から入った方が良いと考えている。回路定数を決めることができなければ、回路は組めない。
汎用オペアンプである741形ICで、利得-1の反転増幅器を構成するケースではプロなら2本の抵抗を10kΩに選ぶ。しかし、この根拠が電子回路の教本に示されることはあまりにも少ない。10kΩと10kΩの選択は、741形のバイアス電流の大きさと、オフセット電圧とオペアンプの電圧出力能力と電流出力能力のバランスから決定される。
教科書的オペアンプ回路では、抵抗比しか決まらない。1Ω/1Ωでも-1利得の演算増幅回路を構成できる。しかし、この回路定数では、±20mVの範囲でしか期待する動作をしない。集積化オペアンプの出力可能な電流は20mA程度である。したがって、負荷となる帰還抵抗は少なくとも1kΩ以上の値が必要である。オペアンプの電源は通常±15Vまたは±12Vであるから、オペアンプの出力電圧をフルスイングさせるには、次段の負荷効果を考えれば、帰還抵抗の値は2kΩ程度以上となる。
抵抗値の値は無制限に大きくはできない。オペアンプの内部回路はトランジスタ差動増幅器である。したがって、そのベース電流=バイアス電流の影響を考慮する必要がある。741形のバイアス電流の0.1μA程度なので、バイアス電流による電圧降下の影響を10mVまで許容するなら、入力抵抗は100kΩ程度となる。
この2つの幾何平均を取った値が10kΩ/10kΩの回路定数である。この値はバイアス電流による誤差とオフセット電圧の影響がともに小さく、それなりに省エネ定数となる。この段階までやって初めて回路定数が決まる。
オペアンプ回路は比較的少ない2次的の要因で、回路定数の値を決めることができる。工学として扱うなら回路定数を決める戦略まで同時に教えることが必要だと思う。そこに躍動感のある電子工学の世界がある。
間違ってもいいから、具体的な部品とその値を定めないと、シミュレーションすら行うことができない。回路シミュレーションでは部品の絶対値を入力する必要がある。抵抗比の決定方法しか教わらないとすれば、回路シミュレータが使えるわけがない。しかし、オペアンプ回路は解析主導型設計が多くの場合可能であるから、若いアナログエンジニアはオペアンプ回路から入門するのが効率的だと思う。
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