アーリー電圧
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バイポーラトランジスタではベース電流IBとコレクタ電流ICは直流増幅率をhFEとして、
IC=hFE・IB ・・・・(1)
と表現されます。
式(1)にはコレクタ-エミッタ電圧VCEを含まないので、IBをサブパラメータとして、VCE-ICグラフ上では、VCE軸に平行な直線群としてこの特性は表現されます。
現実のバイポーラトランジスタでは図に示すように右上がりの直線群が観測されます。
hパラメータの世界では、hoeで傾きだけは表現できますが、右上がりの直線群は、負方向に外挿するとほぼ1点でVCE軸と交わります。これがアーリー電圧VAです。
したがって、hoeの値は基本的にICに反比例するので、hパラメータは広い範囲で有効な解析方法にはなりません。
この様子を、単純な式で表すと、
IC=hFE0(1+VCE/VA)・・・・・(2)と表現できます。
本格的な回路シミュレータでは(2)式のモデルが使用されています。
hFEが大きな温度依存性をもち、VCEを変えるとトランジスタの素子温度が変化するので、注意深く測定しないとVAの値は著しく低い値が計測されます。
個別トランジスタでは、アーリー電圧VAの値はおよそ200-50V位の範囲にあります。
アーリー電圧の回路的影響は、電圧依存性の計算や能動負荷回路の計算では必須の検討項目になります。
能動負荷回路では、非理想的な定電流回路同士のバランスの問題となるので、理想的な定電流原をベースにした原初的な式(1)では計算不能になります。
アナログエンジニアは必要に応じ、式(2)を利用して解析を行います。
学生・アマとプロのおおきな違いは、デバイスの2次的特性を考慮して特性予測・性能予測ができるか否かであって、教科書の原理説明の部分で提示される基本的な簡略化したモデルで考えていない点にあります。
非理想的な特性図を示すのであれば、それに対応する説明が必要です。理想的な図を示すのであれば、その図からいえる理想的な論議をやればよいのです。
多くの回路本では図と記述に整合性が取れていない場合があります。またhパラメータは意外に実務で使用する場面は少なく、かつ半導体デバイスを簡潔に表現する式ではないと私は考えています。
なお、現在のトランジスタデータブック/データシートには、例外を除きhパラメータに関するデータは記載されていません。(hFE以外)。hパラメータは、トランジスタでは、動作条件で大きく変動する変数なので、半導体メーカは記載できないのです。
しかし、工業高校・大学の電子回路教育では、hパラメータを利用した解析方法を主体に説明する形式が一般的ですが、これでは現実の回路設計には直結しないと思います。
理系を志望する高校生が少なくなっている今、貴重な電子回路を志す方に少しでも効率的な学習方法を提供していきたいと願うアナログエンジニアである。
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