プッシュプル出力段
バイポーラリニア回路のプッシュプル出力段のバイアス回路は結構悩ましい設計となる。
とくに、個別部品で組む回路においてはパワートランジスタとバイアス回路が同一温度であると期待できないから、出力段の損失の増大とともに、VBEが減少し、静止電流の増大を覚悟しなければならない。
純ダーリントン接続の出力段なら、VBE4個分のバイアスをふつう掛ける。
しかし、VBEは電流と温度の関数である。品種によってもかなり異なる。ばらつきもある。通常はバイアス回路の電圧を、ダーリントン接続のトランジスタの静止電流時の電圧より高めになるように、ダイオードの品種と電流密度を選ぶとともに、ダーリントントランジスタに値の小さなエミッタ抵抗をそれぞれ挿入する。
アナログエンジニアは時として、ダーリントントランジスタの初段のエミッタに抵抗を挿入する。初段の負荷電流はあまり多くないので、バイアス回路とほぼ同一温度になる。
プッシュプル回路で静止電流を流す理由は、クロスオーバー歪を低減するためにある。
微小入力時にはダーリントントランジスタの初段のみがアクティブになるように、2BE+αのバイアスを掛ける。2段目のパワートランジスタには電流を流さない方針なので、αは2VBEを超えない。
このような設計方法をとれば、通常の方法に比べばらつきの少ない安定な静止電流が得られる。
アナログエンジニア流のバイアス方式は、VBEの温度係数の電流依存性と、VBEの電流依存性、ダーリントントランジスタのhFEのバラツキに伴う初段トランジスタのVBEの変動による静止電流への影響の考察の結果である。
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コメント
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似たような考え方で、OPアンプ出力にトランジスタを追加するときも、バイアスなしのプッシュプルとベース-エミッタ間抵抗を使うという方法もありますね。これも便利な回路だと思いますが、最近は出力電流の大きいOPアンプを使うという方向になりそうで、こういう技術は廃れていくんでしょうか…
投稿: UTiCd | 2009年10月16日 (金) 08時39分
UTiCdさん コメントありがとうございます。
ご指摘の回路は電流増幅には有利ですが、出力電圧ダイナミックレンジがVBE1個分だけ減るのが厳しいですね。
>最近は・・・・
パワーOPアンプでは実装上の都合で放熱能力に限界がありますね。パワーOPアンプを必要とするケースはL負荷が主体で、Cf負荷もあります。R負荷は比較的少ないように思います。
こういう技術は廃れはしないが、やる人はだんだん少なくなっていくと思います。
投稿: 5513 | 2009年10月16日 (金) 14時55分