エミッタ接地の負荷線
エミッタ接地の負荷線(負荷曲線)の説明図はわかりにくいのが通例であるが、初心者向けや工業高校向けなどの書籍には必ずと言ってよいほど記載されている。
負荷線はIc=(Vcc-VCE)/RL Ic:コレクタ電流、Vcc:電源電圧、VCE:トランジスタのコレクタ電圧 でトランジスタのVCE-IC曲線に重ねて表示される。伝統的に使われるこのグラフで何を伝えたいのか。
能動状態のトランジスタに入出力特性を図解したいのであれば、VBE→IBの正確なグラフが必要だ。
エミッタ接地回路の一般的な回路定数での電圧増幅率は100前後であるが、負荷線に示されるような大振幅動作においては、入力抵抗ri≒VT/IBであり、ベース電流IBが大きく変化し、大きな波形ひずみが生じる。VT:熱電圧 正弦波出力が得られることはない。
能動状態の小信号増幅率を表現したいのであれば、出力電圧(コレクタ電流)が電源電圧に比べて十分小さい図が必要となる。
負荷線で使われるVCE-IC曲線は、データーシートのものが良く使われるが、飽和特性やアーリー効果によるhFEの変化が目立つように記載されている。しかし、その後の増幅率の計算過程ではhFEは定数として扱われている。
もっと問題なのは、入力抵抗ri(hie)の数値の入手方法の記載がないことである。hieは先に述べたように、熱電圧VT/IBで強くベース電流に依存するので通常はデータシートに記載されない。
負荷曲線を使ってトランジスタの増幅率を議論している本の著者は、1石エミッタ接地増幅器を本当に実験したことがあるのだろうか、疑問を感じる。多くの回路解析技術の基礎が含まれているというのに・・・・
負荷曲線を使ったエミッタ接地回路の説明は、日本では伝統的な説明法であるがその効果記述の正確性は乏しい。やさしい説明にもなっていないのである。
なお、エミッタ接地回路がスイッチング用途であれば、直接電圧駆動することはなく、信号源とベース間に抵抗が挿入される。
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コメント
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この頃の教科書の内容の低さにはがっかりしております。
アナログエンジニア様のようなホームページがもっとあれば良いと思うこの頃です。
この間、本購入しました。
投稿: はやしよしのぶ | 2010年10月 4日 (月) 10時07分
確かに負荷曲線を使えば判りやすいとの間違った思い込みが著者側にあるようです。
電子回路教本の多くは1960年代の東大、東工大の先生の流れに沿う形で記述されています。
OPアンプなら、CQ出版のOPアンプ大全 シリーズがお勧めです。
投稿: 5513 | 2010年10月 4日 (月) 14時55分