卒研でマルチバイブレータ
アナログ電子回路を新人に設計・製作させることは案外難しいし、時間も十分必要だ。回路構成と定数と部品を用意して数時間で実験させるのとは次元が違う。
某大学の卒研で2石CRマルチバイブレータ発振による白色ダイオードの点滅回路がテーマーになっていた例がインターネットでヒットしたことがある。参考文献のなかに私の著書も入っていたので検索で出てきた。
無安定CRマルチバイブレータはベース電位が電源電圧と絶対値がほぼ同じ負電圧からpn接合の順電圧まで変化するから、秒単位の時定数を得るには電解コンデンサが必要で、極性のある電解コンデンサに1V弱の逆電圧がかかる。アルミ電解コンデンサでは逆電圧を掛けるとすぐに損傷する訳ではないが、信頼性に影響するとされるので、量産規模の設計ではふつうやらない。タンタルコンデンサなら、1V程度の逆電圧を許容する品種があるので問題ない。コンデンサの選定も安直にはいかない。
ベース電位≒コンデンサの両端電圧は半周期ごとにほぼ電源電圧の絶対値に等しい負の値から、0Vへ一次遅れ系で電圧が変化する。この時、電源電圧が高いと単純に設計するとB-E接合の降伏が生じる。基本無安定回路では電源電圧をB-E間耐圧以下、具体的には5V程度の電源を使用する必要がある。
電源電圧を5Vとすると、白色ダイオード(順電圧3-3.5V)の電流制御も単純にはいかない。トランジスタのコレクタ側に接続すると、タイミングコンデンサの接続位置によっては、狙った周期にならない。
その結果、与えられた基本回路から少し工夫して部品をいくつか追加することになる。
白色ダイオードの電流が大きくなるとその順電圧も増大するので、自力でLEDの電流‐電圧特性を把握しておく必要もある。
こんな訳で、電子回路を一から設計してもらうには卒研期間程度の時間がかかるのだ。会社の新人教育でもかなりの時間がかかる。それも丁寧に動作を言葉で説明する解説を加えて指導しての話である。
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コメント
この記事へのコメントは終了しました。
先生、待っているのですが、新しい本いつごろ出版の予定ですか?
投稿: はやしよしのぶ | 2012年3月13日 (火) 09時48分
わたしの本は、多分、今月にでると思います。正確な日は、まだ公開できません。著者の権限ではないので・・。
投稿: 5513 | 2012年3月13日 (火) 17時26分
紹介された本を買いました。最初アマゾンで予約しようと思ったのですが、予約できませんでした。
今、本屋ではこのタイプの本は少なくなってきています。図書館でも同様です。
昔、会社在職中には何か調べたい時には、本屋に行ってそのテーマの本を何冊も買い込んでました。
今でも手元に何冊か残した在ります。
大学がどうのこうのと悲観されているような書き方がされているところがありますが、まだこのタイプの本が残っている間は大丈夫な気がします。
投稿: ハヤシヨシノブ | 2012年5月15日 (火) 11時58分
2011年5月26日 (木) 卒研でマルチバイブレータをコピーして他人に見せたいのですが、駄目でしょうか?
投稿: ハヤシヨシノブ | 2012年10月26日 (金) 05時10分