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2011年5月20日 (金)

SPICEの効用と限界

電子回路のシミュレータと言えば、SPICE系のシミュレータである。

回路シミュレータは他のシミュレータと同様、設計はしない。あくまでも、設計結果の回路定数を与えて、その結果を表示する手段である。

SPICEは1960年代後半にカリフォルニア大学バークレー校でアナログICの開発ツールとしてターンアラウンド期間を短縮する目的で原型が作られ、それを元にして各社からさまざまなSPICE系シミュレータが市販されている。

SPICEを使えば、各人の解析能力を超える複雑な回路も扱えるようになる。現物が存在しない回路の特性を事前に予想することもできる。しかし、その前提として、シミュレーションの前に、どこが課題か、予想されるプロービングポイントはどこか把握しておく必要がある。

事前にどこを測り、どのような特性が予想され、課題はどこか自力で予想できなければ、シミュレーションそのものが成立しない。黙ってPCの前で回路を打ち込めば結果が出てくる代物ではない。設計能力がない人には無用の長物である。とはいえ、SPICEは設計能力と事前検証を数倍以上に増強してくれるシステムである。

生まれがアナログIC向けなので、個別部品ではふつうに生じる自己加熱による素子特性の変化は扱わない。素子モデルに記述されていない特性は無視されると考えてよい。

SPICEを有効に使うためには、手解析による設計能力の向上が不可欠である。

個別部品でつくるアナログ回路では、解析対象/項目に関連するパラメータのみ妥当であれば目的を達成できる。特定の素子のSPICEパラメータを欲しがる方ほど、SPICEを使えない傾向があるのだ。

数式モデルで表わされた素子は破損することがない。これは、パワー回路の初期の設計効率を大幅に向上させる。

SPICEはオシロスコープや信号発生器と同様に、回路を扱う際のツール/測定器と同様な役割を担うべきであり、効用も限界も使用者の技量次第となる。

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コメント

やはり、使う道具の素性を、利用する範囲で理解しておく事の重要性を再確認しました。

社内外を含め周りを見ますと、理解度が高い方ほど、高精度素子モデルがなくても製品開発を、そこそこ円滑に進めています。対して、理解度が低い方ほど、高精度素子モデルを欲しがります。しかも、素子モデルへの理解度も低いため、使い方を誤りモデルの性能を発揮させる事ができないといった状況をよく見ます。

頭で考え、手を使って書きとめておき(=概要設計&筆算)、DC/AC/TRAN/感度解析といった膨大な数の繰り返し解析をSPICEを使って数値演算させるといった流れが、本来あるべき姿では?と思っています。

先輩が記した文章の、「何も考えずに使うと、SPICEはただのテレビゲーム」を思い出しました。

ふじみ野のまっちゃん へ
SPICEを個別部品回路で使うときには、解析対象に必要な部分だけモデルパラメータを合わせておけばよいのです。総ての解析対象に有効な高精度モデルを作るには、膨大な実測が必要で合理的ではありません。
また、回路設計の検討対象の温度依存性などは、きれいにモデル化できません。個別部品では、全部品が同じ温度にはふつうなりませんン。

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