安全動作領域
バイポーラパワートランジスタには安全動作領域(ASO)が規定されている。このASO、ふつうはあまり余裕のない仕様で、しかも、時間の関数である。
ASO違反の設計は、ドロッパ式安定化電源の主トランジスタやインダクタンス負荷、とくに双極性の定電流源で見受けられることがある。
ドロッパ式では、負荷短絡が生じた時ASO違反があると、負荷短絡とともに最大電流・最大VCE電圧の状態になる。フの字形電流制限機構を持つ安定化電源回路では、中間的過負荷でも発生する。
バイポーラパワートランジスタは短時間であっても、定格電力を掛けられるとは限らない。
アナログエンジニアは若い頃に、ダイオードの破壊耐量を調べるため、ピーク出力数kWの定電流パルス発生回路を製作し、μ秒までのパルスを発生させた。この時、ツェナーダイオードが破壊した後も長くパルスを継続させると、パルス発生回路の方も破損してしまう。
ASOはバイポーラトランジスタのVBEの負の温度係数が関与していて、大チップトランジスタでは、何かの原因で高温になると、その部分に電流が集中してしまう現象だ。
パワーFETでは、このような現象は生じないとされる。あるパワーFETのデータブックの用語の説明とともに、大電流・大電圧でのチップ内温度分布を可視化した写真を見たことがある。
バイポーラトランジスタでは著しい不均一があり、FETでは見事に均一であったことが今も印象に残っている。
安全動作領域違反による素子破壊は短時間で起こる。
パワーFETでは安全動作領域の問題はほとんどないが、スレショールドゲート電圧が高いので、直列安定化電源では補助電源がないと駆動が難しくなるので、中間の電力を扱う回路ではなかなかFETに踏み切れないのである。
安全動作領域の怖さは知る人ぞ知る。
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コメント
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ASOに限らず、デバイスのデータシートをよく読むのは大事だ。データシートに無駄な情報は一つもない。それなのによく読まないで回路設計をして問題が生じることがよくあった。特に英文のデータシートだと読まない例が多い。英語の技術資料くらい辞書なしで読んでほしいものだ。
投稿: 非国民 | 2011年10月11日 (火) 20時58分
非国民さん おはようございます
素子のデーターシートを良く読むことはとても大切ですね、同感。とくに、測定条件付きのデータは注意して読む必要があります。裏読みすれば、測定条件以外では何の保証もなく、半導体の性質を考えて使う条件での性能を考える必要があります。
英語圏は広いので、良い技術資料、教本が多いのも確かだと思います。
投稿: 5513 | 2011年10月12日 (水) 06時42分